世界の説明書
「明子、明子、しっかりしなさい。いいか、これはおまえのせいじゃない、誰のせいでもないんだ、今は誰のせいにしたってしょうがない、俺達が泣いていたら名子はもっと不安になって、泣いてしまうよ。今は、悪い事だけしか考えられなくとも、俺達だけしか、名子を助けられないのだから。 明子もう泣かないでくれ、頼む、明子が、そんな顔するなよ、、俺も心が耐えられなくなる、あの子がもう二度と私達の顔を見る事が出来ないなんて、、、、」

 とめどなく無く流れる涙を顔面の筋肉で必死に止めようしながら正人は必死に明子を励ました。まるで自らに言い聞かせるかの様に話続けた。

「明子、明子、これからは何があっても、絶対に名子を守ってみせる。たとえ運命だろうと、偶然だろうと、なんだろうと、俺は、俺達は絶対にあの子を一生守っていくんだ。な、な、どんなに辛い事がこの先俺達に降りかかったとしても、俺達が一緒にいれば大丈夫だろ。それに、一生目が見えなくなった訳じゃない。見える様に成るかもしれないだろう。だったら、一日でも早く、名子の目が治る様に家族全員で頑張っていこう。希望はまだある。先生、そうでしょう。」

 意見を仰ぐというよりも、絶対にそうであると確信に満ちた視線を正人は医者に向けた。医者は無言で深く頷いた。こういう場面に慣れているのか、それとも本心からか、医師の力強い眼差しに正人は希望の光を感じた。そして、一人握り締めた拳の痛みで、心の不安を消し去ろうと、噛み締めた奥歯で目に見えぬ運命の卑怯者を噛み砕こうとしていた。

 明子達の住む世界が、初めてその牙を向けた相手は、小さな女の子だった。途方にくれる明子の肩を、正人は黙ったままぐっと抱きしめていた。二人は心の中で、二人が深く悲しめば悲しむほど、目に見えない奇跡の慈悲がこの不幸を拭い去ってくれるのではないかと、悲しみの裏で自らの不幸のの確率を今までの人生にあった幸運の確率で割っていた。


「ママ、パパ、、、、どこに いる の?ねえ、みんな、、どこに、、、いるの、、私は、、どこに、、、いるの、、、なんで、、、、なんで、、こんなに暗いの、、真っ黒だよ、、」
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