世界の説明書
事故から一週間後、名子は病院から退院した。幼い名子にとって目が見えなくなったという事が、この世界を生きる上でどれ程の意味があるのか、誰にも説明なんて出来やしなかった。 朝はいつも通りにやって来る、小鳥達も昨日誰が喜んで、今日誰が悲しむかなんて全く気にも留めずに歌いたいように歌っていた。
名子の事故を聞いたケン君は、幼稚園に来なくなった名子の家によく遊びに来るようになった。明子も今まで描いてきた子供の将来を突然の不幸が全く違う方向に導いた事に、少しは慣れてきていた。だが、あの明るかった名子の口数が徐々に減っていくのを見ながら、毎日、正人の胸の中で小さく悔しそうに震えていた。正人も、目に見えない不幸の馬鹿野郎が次に現れた時にどうしてやろうかとばかり考えていた。世界は相変わらずポーカーフェイスを気取っていた。
「ママ、何も見えないって、すごく不安で怖い。だって、寝てても、起きても、ずっと真っ暗だもん。ねえ、ママには名子が見えてるの?」
「名子、ママにはあたながいつも見えているわ、それにずっと見てるわ。」
「え、そんなに見ないで、だってなんだか恥ずかしいから。それに、自分が見えないのに、他の人には見られてるのって怖い。どうやったら、私も見える様になれるのかな。」
明子は鼻の奥を突き刺す感情を抑えながら、
「名子。ほら、今、ママの声が聞こえるでしょう、という事はあなたにはママが見えているの、聞こえると見えるって大して違わないわよ、ここにママがいるって分かるって事はあなたにはママが見えているの。テレビに映っている人達から、私達は見えない、でも私達は見ている。それに比べたら、あの人達より名子はママの事が見えてるでしょう。それに、名子がいい子にしていたら、神様はきっと名子の目が見える様にしてくれるわ。」
名子の事故を聞いたケン君は、幼稚園に来なくなった名子の家によく遊びに来るようになった。明子も今まで描いてきた子供の将来を突然の不幸が全く違う方向に導いた事に、少しは慣れてきていた。だが、あの明るかった名子の口数が徐々に減っていくのを見ながら、毎日、正人の胸の中で小さく悔しそうに震えていた。正人も、目に見えない不幸の馬鹿野郎が次に現れた時にどうしてやろうかとばかり考えていた。世界は相変わらずポーカーフェイスを気取っていた。
「ママ、何も見えないって、すごく不安で怖い。だって、寝てても、起きても、ずっと真っ暗だもん。ねえ、ママには名子が見えてるの?」
「名子、ママにはあたながいつも見えているわ、それにずっと見てるわ。」
「え、そんなに見ないで、だってなんだか恥ずかしいから。それに、自分が見えないのに、他の人には見られてるのって怖い。どうやったら、私も見える様になれるのかな。」
明子は鼻の奥を突き刺す感情を抑えながら、
「名子。ほら、今、ママの声が聞こえるでしょう、という事はあなたにはママが見えているの、聞こえると見えるって大して違わないわよ、ここにママがいるって分かるって事はあなたにはママが見えているの。テレビに映っている人達から、私達は見えない、でも私達は見ている。それに比べたら、あの人達より名子はママの事が見えてるでしょう。それに、名子がいい子にしていたら、神様はきっと名子の目が見える様にしてくれるわ。」