世界の説明書
 もちろん学校中から近所中までに、その噂が広がるほどの大事件となったが、彼の両親は学校からの呼び出しにも応じず、半年後になってやっと父親だけが現れた。仕事が忙しいから、この一言で全てが終わる家庭に生まれた二郎に担任も同情し学校にはどうにか残る事が出来たが、その事件以降二郎は本当の一人になった。
 二郎にとってこれほどありがたい事はなく、いままで通り誰とも話さず、繋がらず、一人、気ままに漫画のセカイに没頭していた。そして家に帰ればコンピュターで毎日新しい死体や悲惨な境遇を捜し歩いた。自分の押さえ切れないこの下らない現実世界への憎しみを肴に自分とセカイを繋げる電気信号を楽しんでいた。人と触れ合わない事で、自分を取り巻く世界の流れを無視し、拒絶し、馬鹿にしていた。心の成長は曲がり、凶暴な幼稚さが大人になりつつある体に共存していた。二郎は誰の物でもなかった。全ては彼が自分で決めて、行動し、評価する。そして、自分の求める知識、感覚は何があっても手に入れてきた。全てはインターネットで手に入る。誰とも触れ合わずに生きていけるセカイを愛した。誰も要らない、誰ともわかりあう必要性を人生の中で感じたことなんて一度としてなかった。唯一面倒なのは宅配ピザをインターネットで注文し、ピザの宅配人に顔を合わせて金を支払う時だった。宅配人が、「坊や、一人でお留守番か、えらいね」などといった日には、二郎はその宅配人に良く似た俳優の顔を、自分の死体映像コレクションの首と挿げ替え、デリバリーされたピザを口に放り込んだりしていた。二郎が某国の勇者の死体にも見飽きた頃、彼は公園で一人、木の枝棒を地面の穴に突っ込んでいた。穴から黒い虫が湧いていた。
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