世界の説明書
新しい生活
名子達家族が引っ越した隣町は、以前住んでいた町よりは大分都会で、大きなビルが駅前に立ち並び、車の通りも多く、明子はなんだか、落ち着かない気持ちで最初の何日かを過ごした。名子の盲学校が近くに有るからと大してこの町の地理や交通事情などを調べもしないで、また、いい値段で運命的に明子好みの賃貸マンションが見つかった事で、安易に引っ越しを決めた事に、今更ながら明子は名子のこれからの生活に不安を抱き始めていた。駅前の商店街の裏路地にはあまり柄の良くない飲み屋が数件あったし、自宅マンション前の道路は四車線で、頻繁に大型トラックが我が物顔で煙を垂れ流していた。
正人は、正人で、最近は異様な程精力的になっており、そういった生活環境までは気が回らないようで、朝から晩まで機械のように働いていた。しかし、それも全ては私達の為と、明子はしっかり理解し、自分も必死な夫に恥じぬよう母親として出来る事はなんでも名子の為にしようと心に決めた。名子は明子達が思っているほど落ち込んでいる様子もなく、両親よりもずっと、今の自分の環境に順応していた。ケン君との別れが名子をさらに強くし、もう小学生になったという自負がさらに彼女を大人にしていた。
名子の通うこととなった盲学校は自宅から徒歩で十分ほどの場所にあった。自宅前の大きな車道をずっとまっすぐ以前住んでいた町と反対側に歩き、小さなカフェや雑貨店が立ち並ぶ小道に入り、以前の町にあった公園よりも大きいがあまり人のいない寂しげな公園の横を通ると、無駄な彩色が全く施されていない灰色の盲学校の校門に着いた。学校の前にも大きな道路があったが、毎日俗に言う、緑のおじさんやおばさんが生徒達の安全を守っていた。校庭はあまり広くはないが、通常の小学校にあるサッカーゴールや用具置き場、鉄棒などがあった。三階建ての校舎には小学生から高校生までが共に勉強していた。幸いなことに名子の住んでいる、マンションから学校までは黄色い点字ブロックが道路に敷かれていたために名子も明子も迷うことなく学校まで到着できた。明子にとってこの点字ブロックは、足をひねりかねないありがたくない段差にしか写らなかったが、これがどれ程名子にとってありがたい物か、明子には想像する事しかできなかった。
名子達家族が引っ越した隣町は、以前住んでいた町よりは大分都会で、大きなビルが駅前に立ち並び、車の通りも多く、明子はなんだか、落ち着かない気持ちで最初の何日かを過ごした。名子の盲学校が近くに有るからと大してこの町の地理や交通事情などを調べもしないで、また、いい値段で運命的に明子好みの賃貸マンションが見つかった事で、安易に引っ越しを決めた事に、今更ながら明子は名子のこれからの生活に不安を抱き始めていた。駅前の商店街の裏路地にはあまり柄の良くない飲み屋が数件あったし、自宅マンション前の道路は四車線で、頻繁に大型トラックが我が物顔で煙を垂れ流していた。
正人は、正人で、最近は異様な程精力的になっており、そういった生活環境までは気が回らないようで、朝から晩まで機械のように働いていた。しかし、それも全ては私達の為と、明子はしっかり理解し、自分も必死な夫に恥じぬよう母親として出来る事はなんでも名子の為にしようと心に決めた。名子は明子達が思っているほど落ち込んでいる様子もなく、両親よりもずっと、今の自分の環境に順応していた。ケン君との別れが名子をさらに強くし、もう小学生になったという自負がさらに彼女を大人にしていた。
名子の通うこととなった盲学校は自宅から徒歩で十分ほどの場所にあった。自宅前の大きな車道をずっとまっすぐ以前住んでいた町と反対側に歩き、小さなカフェや雑貨店が立ち並ぶ小道に入り、以前の町にあった公園よりも大きいがあまり人のいない寂しげな公園の横を通ると、無駄な彩色が全く施されていない灰色の盲学校の校門に着いた。学校の前にも大きな道路があったが、毎日俗に言う、緑のおじさんやおばさんが生徒達の安全を守っていた。校庭はあまり広くはないが、通常の小学校にあるサッカーゴールや用具置き場、鉄棒などがあった。三階建ての校舎には小学生から高校生までが共に勉強していた。幸いなことに名子の住んでいる、マンションから学校までは黄色い点字ブロックが道路に敷かれていたために名子も明子も迷うことなく学校まで到着できた。明子にとってこの点字ブロックは、足をひねりかねないありがたくない段差にしか写らなかったが、これがどれ程名子にとってありがたい物か、明子には想像する事しかできなかった。