世界の説明書
 名子の通う事となった学校には名子のような全盲の子供から弱視の子供まで様々な子供達がいた。生まれついて眼の見えない子から、名子のように後天的に視力を失った子供達がお互いの境遇を世間と少し離れた場所で皆で分かち合い、必死に生きていた。

 入学式が終わり担任となる、三十歳代前半の女性教師から、この学校での規則や、全盲の子供をもつ親として、してはならない事、言ってはならない言葉などを明子は教示して頂いた。いまさらながらに親の自分が一番しっかりしなければならないというプレッシャーが明子に重くのしかかってきた。明子は、自分では名子の気持ちが分かっているつもりでいたが、盲目の子供達がどれ程、精神的に脆いのか、自分よりもそういった子供達と長く接してきている先生の言葉は明子にとって有り難くもあり、自分の失明という病気への無知さが浮き彫りになる恐ろしい訓戒のようにも聞こえた。眼の見える明子には想像も出来ないルールが名子達の世界ではもう何千年前から受け継がれている事に驚いた。挨拶は必ず声に出すこと、頭をさげる、視線で訴えるといった事はしない事。 廊下で立ち話をしない事、廊下は必ず右側通行。給食のおわんの配置は時計の針の指す番号で教えてあげる事など、まだまだ、全盲の子と弱視の子供達が世界に求めるたくさんのルールがあった。  
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