世界の説明書
 また、障害を持つそれぞれの子供が、自分の症状と他の子供の症状を比べて、優越感を持ったり、卑屈になったりしていると言う事にも驚かされた。弱視の子供は全盲の子供に対し、自分はまだ目が見えているという事を必死に誇張するが、晴眼者に対しては、必死に自分も同じものが見えている、決して自分は弱者ではないと強がってみたり、先天的に全盲の子供は、後天的全盲者に対して、彼らが空の色を知っていること、地球が青い事を知っている事、色が見えていたという事で羨んだり、後天的全盲の子供は、生まれついて目が見えない子供達に対し、彼らは自分達よりも強く、光の無い世界での先輩であり、全盲としての生き方に長けていると思ったりしていた。こういった考えや価値観は明子達の金と見た目に支配されている世界では想像世界の産物でしかなかった。しかし、名子は明子が思っているほど、そういった大人のルールや想像から生まれた理論には興味が無いようだった。自分は自分、目が見えようと、見えなかろうと、それは変わらないという事を名子は知っていた。誰よりも偉くもないし、強くも無い、ただ今日という日を必死に自分の為に生きているだけだった。世界は相変わらず眩しいほどの光を全ての人々に平等に与えていた。名子もそれを鼻の奥で感じて、くしゃみをした。
< 28 / 200 >

この作品をシェア

pagetop