いばら姫




「… 退屈だろ 」

ニヤリと笑った、デスクの早河さん

長身で眼鏡をかけた、
"かっこいいラクダ"と異名を取る
この仕事場の中で一番の年長

この人と過ごす時間が一番長いから
一番親しいと言ったら親しい




「―― いえ
…前だったら、
"何で俺がここなんだー"って
三日もしないで
怒鳴ってたかもしれないですけど 」



「かな 大体、
アシスタントって言われて入って来ても
心の立ち位置はすでに監督だからね

そこに最初座らされて
若い人は必ず吉田と喧嘩する


―― だから、珍しいなって
気位高い顔してるし、何時爆発するか
実は皆で賭けてたんだ 」



「うは そうなんですか 」


「…僕は爆発しない方に賭けたけど
君がそこで大人しくしていられる理由には
とても興味があるな 」



「――― チケットを 」


「 ん? 」


「―― 野外音楽堂のコンサートのチケット

力んでた時期に
………一番後ろの席を、渡されて
色々気付いたって言うか…」



「――― ああ 成る程 」





ここは確かに退屈だけど
―― 仕事場の流れと人の流れが全て見える


吉田を訪ねて、出入りする人々
掛かって来る電話の向こうは、
この世界の人間

それ以外の、
この仕事に関わる会社、
それら全てに自分の名前を
いつかは覚えて貰えるのだ





「…岡田君、
池上海平って監督知ってる?」


―― 少しギクリとして
「 はい 」と返事をした




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