いばら姫







なるべく人の居ない場所

リンクの端まで誘い出す事にする



俺が気付かない振りで
速度を少し上げると

―― 調子に乗っているのか、
ガスガスと、氷に穴を空けながら
覚束ない足取りで滑って来た




――― フラットで直進
アウトに乗ってカーブ


四方から当たる照明のせいで自分の影が
足元から延びて、三本に増える


ちょうどそいつが陸地と氷上の境目
腰までの高さのボードフェンス
横に拡がる、生け垣を背にした時――


丈は五センチ程
幅広で、ランプに使いそうな
赤いキャンドルをパックに見立て
それを軽く、空中に放り投げる


着氷した瞬間
杖の持ち手をブレード代わりに
カメラ目掛けて狙いを定め
フライングショット


キャンドルは思いきり飛んで――

ぶち当たったカメラを浚って
生け垣の中へと姿を消した




男は、自分の手元から
何故、カメラが消えたのか、
何事が起こったか判らないながらも、
アタフタしたまま、フェンスを目差す


円弧を描き、その目の前に先回りすると
その顔色は真っ青

突いた膝と腕をばたつかせて
大慌てでリンクの外へと逃げて行った



―― もっと追い掛けても良かったけど
ここは皆、防具着けてる訳じゃないし
暴れられたら、本気で危ない ――



「 ああおかしい!
化粧落ちちゃうじゃないのよ!
… 見て見て! 挙動不審なもんだから
警備員に捕まってるわ!! 」



フェンスの上に上半身を預けながら
小松原さんは腹を抱え、
かなりの大笑いしている


俺は一度、リンクを横断して
生け垣にハマったカメラを回収し
最後まで巻いたフィルムを抜き取って
杖と一緒に小松原さんに渡した



「 これ、今の奴が

… 趣味でやってる奴だと
最初の二、三枚に
自分の姿、写してる奴居るらしいんで… 」



「―― あら

私自身が何処かに
売り付ける可能性だってあるわよ?

… 青山君の時みたいにね… 」




小松原さんは、自嘲気味に唇を曲げ
フィルムを引き出し、感光させた






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