大人になれないファーストラバー
「観…えっと、アヤ」
「何?」
「顔…」
いつの間にか、視界いっぱいに観月の顔があった。
いちごミルクのような香りの吐息が鼻先にかかる。
観月のチャームポイントの金色でショートの髪の毛がかすかに頬をくすぐった。
「顔、近い…」
「あ、ごっめーんっ ついつい」
そんな「ついつい」にも慣れたけど。
この時の、あたしを映す色素の薄い観月の瞳は、普通の時とは何かが違っている。
甘い吐息とは裏腹に、瞳に宿る光が鋭くなるというか。
「アヤ、たまに怖い」
「え、なにそれっ」
「ううん…やっぱり怖くない」
「もー びっくりするでしょー」
咲之助よりはそりゃ低いけど、女子にしては観月はかなり背が高くて。
「びっくりしたー」を繰り返しながら笑う観月を見上げるあたしには、観月はまさに太陽みたいに見えた。
「あ、タケちゃん来たみたい」
クラスのみんなが慌ただしく着席しはじめると、それはタケちゃんが近づいて来てるっていう信号。
「それじゃまた休み時間にね」
観月はあたしの頬を軽くつつくいて自分の席に戻っていく。
その背中で金色の襟足がさらさら揺れて、あたしはそれをしばらく見つめていた。