最愛の人
「いつまでも玄関先で話してたらご近所さんに怪しまれるから、中で話しませんか?」
咄嗟に口から出た言葉。
「逃げようと思った」なんて口が裂けてもいえない雰囲気。
頭がちゃんと働いてて助かった。
「そっか。ちょっと待ってて」
あたしの言葉を聞いてさっきの変なオーラはなくなったみたい。
さっきと同じ笑顔を見せてくれたから。
秦さんが向かった先に視線を向けるとー…
車…?
辺りが暗いから気付かなかったけどあたしの家から少し離れたところに1台の黒い車が止まっていた。
その車の運転席に座っている誰かと話してる秦さん。
知り合い…なのかな?
しばらくすると運転席に座ってた人と一緒にこっちに向かってきたので
玄関を開けて2人を家の中にいれた。
あたしの前のソファーに腰を下ろした秦さん。
その横に後ろで手を組んで立ったいる…謎の人。
「紹介してなかったね。こいつは“健二”。俺の部下だ」
部下…?
ってことは秦さんって…もしかして偉い人?
社長さんとか?何とか大臣とか?
……見た感じは普通の人なんだけど。
「黙って俺の話聞いてくれる?」
「…はい。」
大事な話なんだってすぐに理解した。
さっきと全然違う声色で、顔も凄く真剣だから黙って聞かなきゃいけないんだって思った。