最愛の人
いっこうに何も喋らない秦さんをただ見つめてた。
あたしがここで口を挟むと話が逸れていきそうな気がするし
“黙って聞いて”って言われたからには口を挟んじゃいけないと思う。
やっと話してくれる気になったのか
あたしに向けられてた視線を一度逸らしてまたあたしに視線を戻した秦さん。
「実はー…君を引き取りたいんだ」
「………」
それだけ言うと秦さんはまた黙り込んだ。
引き取るってどういうこと?
よく意味がー…
も、もしかして…これもさっきと同じ冗談!?
そうだよね。
誰も進んで他人の子供を…しかもあたしみないな子を引き取りたいなんて思わないもん。
危ない。危ない。
また騙されるところだった!!
「初美ちゃん…俺の言ったこと聞いてた?」
「もちろん、聞いてましたよ。」
「反対しないってことは“OK”ってことでいいかな?」
……ん?
話が進んでるような…?
「あのー…さっきのって冗談なんじゃ…」
「………」
何も答えないけど、秦さんがすごく不機嫌になったのがわかる。
だって眉間に皺が……
その顔を見ていられなくてあたしの視線が徐々に下がり
「だって、さっきも冗談で“さらいに来た”って言ってたでしょ?だから、今度のも冗談なのかなぁって思って…」
完璧に視線が下に落ちた頃
『はぁー』って盛大な溜め息が目の前から聞こえて
「さっき言ったのは本気。因みにさらいに来たって言ったのも本気だから」
えっ…
視線を上げると口端を上げて不適な笑みを浮かべている秦さんがいたー…