危険な誘惑にくちづけを
「……あなた。
 そう、佐倉ちゃん、だっけ?
 昔は、悪いことをやっていたあたしが、今。
 何の職業に付いているか、知りたいの……?」

「出来れば、ぜひ」

 佐倉君の言葉に、薫ちゃんの目が細くなった。

「……あたし。
 今。
 NPOの団体に所属して、海外に出てて」

 NPO……?

 時々テレビや新聞で聞くものの。

 わたしには、あんまりなじみのない、言葉だった。

 それは、佐倉君も同じらしく。

 彼も、首をかしげながら言った。

「NPO……?
 それってたしか。
 政府や企業などではめんどーで、できないコトを、非営利でやる民間団体って事ですよね?
 災害支援か何かの、ボランティア活動ですか?」

「……いいえ」

 佐倉君の言葉に薫ちゃんは、肩をすくめた。

「医師免許を持ってれば、それも良かったんだけど。
 あたし、今。
 別のコトやってるのよね。
 南方の紛争地帯で、地雷除去の手配とか、民兵の武装解除のお手伝いをしてるの。
 だから、最近は。
 日本の裏世界よりも、もっと怖い。
 国際テロリストになりかねない、ヒトビトと顔見知りなのよ」

「……へえ?」

 ……コイツも、また。

 突拍子もない、ウソをついてる、とでも言うように。

 佐倉君は、莫迦にしたように肩をすくめた。


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