危険な誘惑にくちづけを
 わたし、本当は。

 今すぐ、紫音が待っているはずの自分の部屋に、一人で帰りたかった。

 紫音の腕に抱きしめられながら、ゆっくり昔の話をききたかった。

 けれども、現実は。

 まだ、水島とケーキを選んでいる最中で。

 しかも、店の外には、佐倉君が待っていた。

「村崎さんが好きそうなケーキを中心に、五、六個詰めて欲しいんですけど……!」

 いつものように、一つ一つ、ケーキを見ながら選んでいくのが良かったはずだけれど。

 きっと、これが。

 風ノ塚先生に選んでもらえれば、早いし、確実だと思った。

 ケーキを水島と選ぶ時間でさえ、惜しかった。

 本来なら。

 お客さんの相手を他のヒトに任せてもいいくらい、偉く、忙しい風ノ塚先生に選んでもらうなんて。

 申し訳なかったんだけれど。

 困った……と言うか。

 心配そうな顔の風ノ塚先生は。

 わたしに、気軽にうなづくと、ラッピングまで自分でして。

 ケーキの箱を手渡しながら、わたしに、言った。

「今度日本に来た時は、ぜひ顔を出して欲しいって、村崎君に、伝えてくれませんか~~?
 村崎君の厨房の席はまだ~~
 かたずけてませんからって」
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