三日月の雫
話すたびに、柚羽の顔を見つめるたびに、思いがあふれ出る。
――このまま……。
すべてを投げ出して、君と一緒にどこか遠くに行きたい。
僕たちのことを誰も知らない、遠い、遠い場所へ……。
楽しく、幸せな時間があっという間に過ぎるというのは本当だ。
気付けば、部屋のカーテンから太陽の光が差し込んできた。
「そろそろ帰るよ」
「うん」
別れを惜しむわけでもなく、僕は淡々として玄関に行きブーツを履く。
「それじゃ」
『さよなら』も『またね』もない、曖昧な別れの告げ方。
どちらの言葉も選べない。