ラビリンスの回廊


しかしそれでも、『贄』としての役割は変わらない。


ルサロアが『紅玉』を通じて『大いなる流れ』に進言し王国の危機を救ったとしても、民衆に知らしめるために『贄』は必要なのだと、

運命に抗うように『紅玉』を探し自らの世界に帰るようで、本当は『贄』としての役割を……


「あ゛ー、もうっっ」


やっぱわっかんねぇかも、と呟きながらがしがしと頭を掻いて、玲奈は苛立ちの声を上げた。


でも、『贄』だから死ねと言われても死ぬつもりがないのはハッキリしている。


それに、『大いなる流れ』が自分を『贄』に選んだというのなら。


「野郎、ぶん殴ってやる……」


そんな物騒な物言いを耳にしたものは、幸か不幸か誰もいないようだった。


「エマ!」

「は、はいっ」


突然の呼び掛けに、エマは思わず返事をする。


「……あのさ。いっこだけ。

あたしはアンタが悪い奴だとは思えないし、思ってないから」


だから謝んなくていーよ、そう言いながらぽりぽりと頬を掻いた玲奈に、エマは一瞬見開いた目をゆっくりと細め、小さく微かに頷いた。


< 139 / 263 >

この作品をシェア

pagetop