ラビリンスの回廊
「それと」
言葉を付け加えながら、玲奈はヴァンを睨み付ける。
それでも微笑みを絶やさないヴァンの瞳に、玲奈の敵対心は吸い込まれていくかのようだ。
虚勢をはるような気持ちになっている自分に、心の中で舌打ちする。
そうしながらも、ひとこと言わないと気が済まない。
「アンタ、最低だよ」
玲奈たちの身分を暴くために彼女たちを危険に晒し、目的のために主であるはずのイシュトすらもぞんざいに扱うことを許容した。
最低だと思った。
しかし放たれた言葉は、ヴァンに到達する前に意外な人物によって、やんわりと諌められた。
「レナ。俺様の管理不行き届きだ。
……悪かった」
薄い琥珀の髪が、さらりと顔を隠したかに見えた。
否、頭を下げているのだとわかるまでに、たっぷりと時間をとった。
そうしてだいぶ経ってから、呼ばれた名前がようやっと玲奈の耳に届く。
まじまじと見つめる間、彼の頭が上がることはなかった。