ラビリンスの回廊


玲奈はむっつりと不機嫌な顔をつくり、ぷいとルクトから顔をそらした。


自然と染まる頬は、恥ずかしさのせいではないと自らに言い聞かせる。


──怒ってるからだかんなっ……


ルクトに子どものように扱われたことに対しての怒りだと、そう強く思った。


そしてそれを頭から振り払うかのように、勢いよくルクトに背を向ける。


背後で空気が緩んだ雰囲気がした。


なんだかそれも癪に触って、視線は向けることなく声だけ、半ば当たり気味にイシュトにぶつける。


「それとっ……あたしはレナじゃない。玲奈だっ」


紅潮した頬そのままに怒鳴る玲奈は明らかに照れ隠しで、イシュトもそれを知ってか、悪魔のような笑みを浮かべながらゆっくりと玲奈に近付いた。


地面を睨み付ける玲奈に気付く様子はない。


極限まで──イシュトの唇が玲奈の耳元近くにまで近付き、

「他の奴と同じ呼び方なんて御免だな」

息が玲奈の耳をくすぐって。


「ち、近寄るな……!!」


飛び上がらんばかりに驚き後退った玲奈に、極上の微笑みを見せつけた。


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