AEVE ENDING
『ひばり』
それなのに、暗闇の世界に色が見え始めたのはいつからだったか。
『雲雀、ねぇ』
僕を呼ぶ声があまりにも何気なくて、あまりにも優しくて、だから。
―――だから、じゃない。
「橘しか見たくない。橘が僕の代わりだからとか、そんなことじゃ、なくて」
この荒廃した世界に産まれてきて、そうして僕に出会うまで必死に生きていてくれたことが、それすら、嬉しくて。
僕を知らぬ過去の橘ですら、存在してくれる事実に、胸を焼ける。
「…どうしたらいいか、わからないくらい、君が」
言葉を紡ぐうちに、泣きたくなった。
実際、涙など浮かべたことのなかった眼には、きっと揺れた膜が張っていただろう。
「…っ、」
僕の言葉を遮るように、ぶつかるように触れた橘の唇が酷く、震えていて。
がむしゃらに、がむしゃらに求めたのは、なにもかもが、これが初めてだったと思う。
その伸び上がった華奢な背中を抱き締めて、噛みつくように唇を塞いで、全てを流し込むように、強く。
(融けていけたら、いいのに)
「…っ、」
背中に廻った橘の腕にも力が入る。
皮膚に食い込むほど、強く。
舌で全てを掬い取るように掻き抱いて、剥き出しの体を、自分に同化させるように抱き潰して。
小さな乳房が僕の胸板に圧し潰されて、互いの無い距離に心臓の音が響いていた。
「…好き」
その音を感じながら、何度も。
「わたし、」
橘が必死に伝えようとしてる。
呼吸すらままならないような状況で、それでも舌で応じながら。
「…っわたし、ね」
涙声で、必死に、僕へ。
「っ、す、きだ」
ひばりが、すき。すきだ。
嗚咽のように繰り返す、悲鳴のような、愛の憧憬。
これを、愛だなんて思わない。
(…そんな生ぬるいものじゃ、なくて)
唇じゃ物足りなくなって、その音を共有している耳朶に噛みつく。
跳ねた体に、笑う余裕もなく、欲情していた。
曝された首筋の傷に全てを寄せて、体全身で、橘のすべてを、慈しんで。