AEVE ENDING





「…ねぇ、知ってる?」


睫毛が交差する位置。

唇が触れ合う、距離に。


あぁ、どうしようもなく。




「僕が深い眠りに就けたのは、君のベッドに潜り込んだときが初めてだったってこと」

―――そうして醜い傷痕に躊躇いなく吸い付いて、私を明るい方へ導こうとする。



「橘」


(…ねぇ橘、僕はね)


「目が覚めて君の髪をなんとはなしに撫でて、初めて…産まれて初めて、「安堵」を知ったこと」

会って間もない、それもかつてないほど生意気な人間の寝床に潜り込んで、その物言わぬ暖かさに、胸が震えたこと。

こどものように安心しきった寝顔を晒して、涎まで垂らしてるのに。

(…眠ることにすら、彼女は傾倒する)



「僕が初めて美味しいと感じたのは、君が満腹だと言って寄越した食べ掛けのおにぎりだったということ」

「僕が人の舌の味を知ったのは、君が初めてだったってこと。…僕が抱きたいと思ったのは、君だったからってこと」


―――ねぇ、聞いて。




「僕に初めて、「生きる」ことを教えてくれたのは、君だということ」

君は僕の全てを産み出す、唯一の器官だ。



「…こんなに焦がれたことなんてなかったから、少しだけ、怖いよ」

その傷付いた体を抱き締めて、鼻孔を君で塞ぐ。


「バカみたいだと、何度思ったか知れない」

こんな小さく脆い生き物に沈んでゆく世界。

眩しくて、目が開けられない。


「…やっと手に入れたのに」

それなのに、胸に湧く不安や物悲しさはなんだろう。

超過してしまった幸せが、そうして錆となって昇華されてゆくのか。



「…橘だけだよ」

なにもかも、君に起因すればいい。

「死」すらも君に望む憐れな僕は、盲目の傍観者に過ぎないのだ。

世界を見守る筈の傍観者が、その住人に心を奪われた。


「…ひばり」

ほらそうして、君が呼ぶ名を初めて好きになった。


「…ひば、」

縋るために抱き締めるんじゃない。

きっと僕らは、融け合うために産まれてきたから、だから。



「泣くなよ、ばか」


そうして泣き笑う彼女が好きだ。

心底から滲む想いにいつか溺れてしまうかもしれない。


(そうして世界は息を吹き孵す)







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