AEVE ENDING






「―――彼女は、幸せだと思うかね?」

なんの感情をも含まない声は、いつから耳に馴染むようになったのだろうか。
はじめは恐ろしくて恐ろしくて堪らなかった無機質に、今や敬愛すら抱いている。

―――暗闇の具現。



(…それでも彼女と出会って、再び恐怖は蘇ったのに)

身体中に傷をこさえたリィは、負傷して未だ目覚めぬ弟を抱き締めながら主の眼を見た。

修羅と倫子が暴走して、桐生すら危機に陥ったあの日から半月―――。

隠れ家へと命からがら逃れてきて、洗脳を解かれて初めて、桐生の姿を確認した。

傷だらけの己と弟、桐生の姿。



(…まさか、また桐生に操作される日が来るとは)

しかも、自分達の意思に反して。

桐生が捕獲されて以来、収容所で少なくとも以前より穏やかな日々を過ごしていたというのに、何故今、再び、桐生を目前にしているのか。


「…ロゥは、まだ目覚めないのかね」

浅い呼吸を繰り返す桐生も、また無事ではなかった。

しかし捨て駒を看る余裕はあるのか、リィとロゥの治療は全て桐生が施したものだった。

暗い暗い、縁の底。

暗闇には、慣れたくない。



「…もうすぐ目覚めますわ、きっと、もうすぐ」


―――そうしたらきっと、私とロゥは貴方を殺すでしょう。

言外に伝えられたそれは、桐生にはなんの驚きも呼び起こさなかった。

白濁の男は小さく苦笑すると、やはり浅い息を吐く。

見た目よりずっと、内の心臓は息絶え絶えに震えていた。
負傷した身体はもう無様に、生きることを望んでなどいなかったからだ。




『桐生』

耳につく、あの少女の声が。

『お前は』

贖罪を望んでいるのだろうか。
いいや、彼女はそうも弱く、ない。



「…お前達の手は、汚させはせんよ」

白濁がゆっくりと立ち上がる。
全身の痛みを耐えるように覚束ない足取りで窓際へと寄る姿は、かの支配者とは思えない。

老いぼれた手が室内を暗闇に貶めていたカーテンを流すと、突然、光の差し込んだ空間にリィは眼を細めた。

それを合図としたように、ロゥが小さく身じろぐ。


光が満ちた世界は、暗澹とした白濁とは違い過ぎた。




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