AEVE ENDING
―――カシャン。
「橘…?」
薄いカップが見事に床に広がった。
美しい曲線を描いていたそれは、今や鋭利な欠片と化して倫子の足元を煌めかせている。
「橘?」
雲雀に呼ばれても反応しない。
手にしていたカップを落とした倫子は、落とした状態のまま固まっている。
雲雀の部屋の窓前に立ち尽くしたまま、彼女の視線が、ぼんやりと空へと投げ掛けられた。
「…きりゅう」
―――ぐにゃり。
倫子がその名を口にした途端、空間が捻れた。
呆然とする倫子を支点にして、渦のように歪む―――強制的なテレポートであるそれを目の当たりにし、雲雀は渦巻くその箇所へと手を伸ばす。
寸でのところで倫子の体に腕を回し、行き場を知らぬ空間移動へと身を任せた。
「…、桐生」
もう一度、なにかを確かめるように倫子が口にした。
桐生。
桐生の気配。
どこかにある筈のそれはあまりにも微弱で浅く、まるで小虫の命のように儚い。
(―――桐生…?)
倫子を支えたまま、雲雀は渦巻く空間を渡り歩く。
目眩がしそうなほどの光に満ちた視界は、雲雀たちが光の速さで移動しているからだ。
きしり。
倫子の脆弱な体が軋む。
力の圧力に耐えきれないのか、雲雀の胸に体を凭れかけさせながらも、たた、ひたすらテレポートの先を見つめていた。
予感は恐らく、間違っていない。
このテレポートは、「彼」に同調した「彼女」が、自ら起こしている。
「…っ、」
光が途切れた。
―――地球から宇宙へと放り出されたかのような、浮遊する感覚。
けれどその感覚に支配されていながら、目の前に広がった光景に息を飲む。
「―――うみ、」
倫子が雲雀の隣で呆然と呟いた。
灰色の空が映し出された、深緑の美しい「青い」、海。
それは遥か彼方まで広がる無限と、深い懐を思わせた。