AEVE ENDING
「…抱っこしてもいい、かな?」
倫子が遠慮がちに赤ん坊の母親を見た。
真醍と嫁はその言葉ににこやかな笑みを浮かべ―――真醍に至っては我が子を可愛いがるあまり鼻血を出しそうな勢いである―――小さな小さな壊れ物を、倫子の腕へとそっと授けた。
ゆっくりと腕にかかる柔らかな重心。
泣くかと思われた赤ん坊は大人しくその命を倫子の腕へと預け、小さく欠伸をした。
欠伸の瞬間、身体全体に力がこもり、小さな小さな拳もきゅうと握られ、更に小さく震える。
「……」
かわいい、と素直に考えている自分に、雲雀は驚いた。
欠伸をして胸に擦り寄ってきた赤ん坊に、倫子は破顔している。
今にも泣き出しそうな顔で、その小さな命を噛み締める。
「…あかちゃんのにおいがする」
震える声色は笑っているのに、その視線は泣いているように見えた。
それに気付いた母親が、赤ん坊の手を取りゆっくりと倫子の頬へと伸ばす。
しっかりと握られた小さな、本当に小さな手が皮膚を撫でた途端、倫子の壁も決壊した。
「…橘」
一筋流れた涙はぱたりと赤ん坊の頬を流れ、母親は困ったように笑みを浮かべる。
聡いのだろう。
倫子の闇に、気付いているのか。
元気づけるつもりが、逆効果になったことへの苦笑を真醍へと向けた。
真醍は真醍で、今度は倫子を思い泣きそうになっている。
真鶸は遠慮がちに倫子の肩に寄り添った。
鐘鬼はただ、橘を見ていた。
機能していない子宮への虚無と、殺してしまった幼い妹への贖罪。
小さな赤ん坊に、産むことのない自分の子と、なくした妹の姿を重ねているのかもしれなかった。
「…ごめん」
ぐすり。
鼻を鳴らし謝罪した倫子、に母親は優しげに笑った。
赤ん坊を受け取りながら、倫子をじっと見る。