AEVE ENDING






「…なにしろって言うんだ」

漠然と、ただままならない苛立ちが倫子の足を止める。

名も知らない針葉樹の並木道。

それが何故か、懐かしいものと重なった。



(―――そういえば、家(うち)には桜の木があった)

狭い家の前に広がる、小さな畑の隅に、桜の木が植えてあった。
それは倫子の曾祖父の代よりもっと昔からそこにあった一本で、栄養が足りていないせいか、枯れはしないものの幹は細かった。

周りは岩肌と硬い土ばかりの大地で、そのか細い姿はどこか骨のようにも見えて悲しかったものだ。

桜、という木は本来は薄紅色の花を咲かすらしいが、倫子はついぞその姿を見ることができなかった。
そもそも倫子の親も見たことがないと言っていたので、もう花を咲かす力も残っていないのだろう。

それは悲しい。

とても悲しいことだ。

けれど。




(―――それでも、生きていたんだな…)


貧しくとも、苦しくとも、人々と同じように。

人のように自ら命を絶つ術がない分、もっとずっとひた向きに。





(……あぁ、そうか)


目が、醒めたような気分だった。

様々なものをなくしたことで曇っていた眼(まなこ)が、やっと透明になった壁越しに現実を見る。


(…私が、やりたいこと、やれること)

かさかさと、足下で落ち葉が鳴る。
風に吹かれそれらは流され、やがて土へと還るのだ。


―――この街の木だって、ただ人の手が加えられているというだけで、必死に生きていることに違いはない。

そしてそれを研究している人間も、きっと必死だったのだろう。

人がかつて暮らした、緑豊かな、美しいまほろば。


それを、取り戻すために。







「…馬鹿だな、」

そんな当たり前のことにも気付かないなんて。

偽善だなんて、蔑んだりして。


(―――まだなにひとつ、決められずにいたくせに)

枯れた大地に緑が広がれば、どけだけ救われることだろう。

見上げた空が青ければ、どれだけの希望を胸に抱けることだろう。





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