AEVE ENDING
「倫子さん」
柔らかく穏やかな、清らかな風のような声。
それに促されて、倫子はそろりと顔を上げた。
さらりと靡く銀の髪が、眩しい。
薄い雲から注ぐ光が、彼女を明るく照らしている。
その麗しい姿を、心底から羨んだ時があった。
けれどそれは、彼女の外見しか見ていなかった証拠だ。
「早く食べましょう。折角のご飯が、冷めてしまいます」
その性格と同じように清廉に笑うアナセスに釣られて、倫子も笑う。
状況を理解しきれていない周囲を置いてけぼりにして、倫子とアナセスは揃って、手を合わせていただきますをした。
―――いつも食べるご飯が、今日はいつもよりずっと美味しく感じられる。
言葉を交わす大切さを、相手のことを知る喜びを、とうの昔に学んだ筈だったのに。
(込み上げる喜びは、同じなんだな……)
「また一緒に食べようよ」
「ええ、是非」
暖かな胸が、今は涙ではなく笑顔を浮かべてくれる。
それが道を決めた倫子にもたらされた、一番の変化かもしれない。
「雲雀さま」
思いの外、賑やかになった食事を終えた頃、アナセスが雲雀を呼び止めた。
倫子は食べ終わった器を片付けにロビン達と席を立っている。
それを閉じた瞼で意味ありげに一瞥して、再び雲雀へと向き直った。
「米国に、貴方との婚約は解消されたと報告しました」
それはあの夫婦の歪んだ遺産だ。
両国アダムの和平の証として組まれた縁組みが、そう簡単に解消できるわけがない。
雲雀は幾田慶造の後ろ楯もあり、そのなにものにも縛られない奔放さでそれを無視できるが、アナセスは違う。
彼女は国に守られた、深窓の女神だ。
雲雀が勝手に反故にしたところで、米国がアナセスに対応を求めるのは目に見えている。
雲雀は、黙って続きを待った。
「簡単には納得してもらえないでしょう。未来に希望を残すための縁組みでもありましたから。―――けれど」
アナセスは、もう一度倫子を見遣ると、殻を砕くように小さく笑った。
「私が、貴方と倫子さんの盾になります」