AEVE ENDING
「…科学者は、「なに」をして追放されたの」
雲雀の足が、倫子の数センチ前で止まる。
(ち、近い…)
背後には首を傾げたまま動こうとしない木偶の坊、真醍。目の前には雲雀。
前後ろから見下ろされて萎縮しそうになる自分を倫子は必死で叱咤する。
「だから、何い……、」
そこで、気付いた。
先程さり気なく流した雲雀の問いかけに、とんでもない返答を返してしまったことを。
「───…っ」
途端、顔が強ばる。
―――とす、と再びもたれ掛かってきた倫子の体を、真醍は雲雀と自分で閉じ込めるように支えた。
なにかを畏れているというより、脅えたような、妙な感情を綯い交ぜにしたような。
「なにを、隠しているの?」
ゆっくりと雲雀の顔が落ちてくる。
両腕を両膝に置いて、前屈をするようにこちらの顔を覗き込むかたちで。
長くてバサバサした睫毛に縁取られた冷たい眼が、倫子の眼球に映る自分の姿を捕らえられるほどには、近く。
「───ねぇ、橘倫子」
ナニヲカクシテイルノ?
ふわり、と雲雀の吐息が倫子の睫毛を揺らして、びくりと倫子の肩が揺れた。
過剰なまでの脅え様に、雲雀は一瞬目を丸くしたが、すぐさま人の悪い笑みを浮かべて見せる。
「…答えないの?」
その微笑を、倫子は脅えながらも苛立たしげに睨み付けていた。
「…言わない」
近距離で睨み付けてきた倫子の眼は鋭く、それなのに自らゆ奮い立たせるように充血していて、酷く憐れに見える。
けれど。
(…そそるね、その眼)
強者に屈しない、弱者の眼。
思わず、雲雀の口角が釣り上がる。
「なら、仕方ない」
雲雀の指がゆっくりと倫子の制服に伸びた。
ブレザーの合わせ目に沿って、華奢な掌が薄いシャツを撫でていく。
びくつく薄い胸が、可笑しかった。
「…おい、ひば」
なにをしようとしているのか。
完全に硬直してしまった倫子が不憫に思え、真醍はつい雲雀に声を掛ける───が。
雲雀に一睨みされ黙殺してしまった。
その聡明な顔の造りで口元に笑みを浮かべたまま冷ややかに黙れと一瞥されれば、黙るしかない。