AEVE ENDING
(触らぬ雲雀に祟りなし…)
そんなことを考えながらも、眼下で良いように游ばれようとしている倫子が可哀想なのは変わりない。
(なにせ生粋の薄幸少女みたいな顔してるし。…あんまカンケーねーけど)
会って数時間しか経っていないが、パートナーらしい雲雀に振り回される様とか、端から見ているとなんとも憐れなのである。
同情せずにはいられないというかなんというか。
しかし、雲雀はこの状況を心底から愉しんでいるらしい。歪みきっている。
「…っ、」
ゆるゆると女性のような指先を倫子の首筋に絡めては、愉悦に満ちた目を細めて俯きがちに眼差しを落とす。
(色っぺぇ)
艶やかな表情を浮かべる雲雀に欲情しそうになった真醍など、渦中のふたりには眼中にない。
―――今や倫子は、混乱を通り越して怒り狂っていた。
首筋を撫でる指は羽が触れるように軽やかなのにが酷く威圧的で、独占的で、これではまるで。
「そんな眼は出来るのに、抵抗はできないの?」
囁く雲雀の声が憎たらしい。
「やめて」
「どうして」
拒絶しても、軽くかわされるばかりで。
「やめろ!」
苛、と湧き立つざわめきが、倫子の声を張り上げさせた。
悲鳴染みたそれに、背後の真醍の身体が驚いたように跳ねる。
「…なら、答えたらどう?」
どうすればやめてもらえるかくらい、わかるでしょう。
まるで心優しい母親が、泣きじゃくる子供を諭すような声色と共に、雲雀は倫子の首筋に唇を寄せた。
その暖かく頼りなげな感触に、ひくりと喉元が震える。
(───あぁ、傷だらけだ)
雲雀はそれをじっと見つめながら、首筋がぞわりと粟立つのを感じた。
粟立ちと同時に、まるで得体の知れない「なに」かが、込み上げてくるような―――。
「…ふぅん」
衣服から覗く、皮膚のあちらこちらにひきつったような線という線。
縫合した痕なのか、はっきりと目立ちはしないが、この距離で見れば、まるで蚯蚓が這うように施されたそれが、よく解る。
首筋にある脈音に寄せていた唇が、ゆっくりと耳裏に到達した。
(…こんなところまで、傷が)
まるで躯中、隙間なく埋め尽くした呪(まじな)いのように。
「どうしてこんな、ボロボロなのさ」
まるで、継ぎ接ぎだらけの、憐れなお人形みたいに。