AEVE ENDING
「…アホらし」
こんな場所で愚痴をこぼしたってどうにもならない。
現状に変化は必要ない。
今のままで充分だ。
(―――神様に秘密が暴かれなきゃ、それでいい)
倫子は小さく伸びをして立ち上がった。
食堂に寄って朝食を受け取り、部屋へ戻ろう。
残念なことに、東部と西部合同のセクションはまだまだ続くのだ。
下手に遅刻して雲雀に殴られるよりマシ、と、倫子が踵を返した──その時だった。
ピィ、ィ──―ンン。
「…!」
ピアノ線が鳴るような音が倫子を襲った。
鼓膜のなかで直に鳴らされているようなそれは、脳味噌から直に思考力を奪っていく。
水面に反響する模様のように、身体から力が抜けていく。
「…ぐ、ぁ」
目眩を覚えながら壁に凭れかかり、ゆっくりと振り返った。
吹き抜けの回廊の終わり──水平線を一望できる、その場所に。
「…見ぃつけた」
全く同じ顔をした男と女が、二人。
―――ィンンン…。
見知らぬ彼らを視認した途端、脳内を振動させていた音も強まった。
鼓膜が今にも割れんとしているようで、顎を痙攣させるような痛みも増していく。
「音」の凶器―――。
「…っあんたら、誰?」
酷い頭痛を引き起こしている「音」に顔をしかめながらも、倫子は突然現れた正体不明の男女を睨みつけた。
白い装束はまるで西洋の聖職者さながらだ。
金縁を施された長い裾をはためかせ、同じ顔の男女は目を丸くした。
「「あれ?」」
発する言葉すら同じとは恐れ入る。
ふたりは睫毛をしばたかせ、不思議そうに顔を見合わせた。
「…リィ、これ、女だよ」
「見ればわかるわよ、ロゥの馬鹿、嫌味!…おっかしいなぁ」
同じ顔をした男女は二人、宙に浮いたまま首を傾げている。
(…なんだ、こいつら)
アダムだ。
人類じゃないのは確かだが、この頭に響く高い音は彼らの仕業か。
痛い。
吐きそう。
(───精神系サイコキネシス…?頭の中で音波を発生させて混乱を誘ってるってわけ?)
ズルズルと頭の中が溶けていきそうだ。
鋭い音階に淘汰されて、使い物にならなくなる。
―――しかし、気を失うわけにはいかない。
倫子は拳を握り、手の内側に思い切り爪を立てた。
その小さな痛みに、少しばかり意識がはっきりする。