AEVE ENDING
───人気のない回廊。
つい先日、奥田と話をした場所に倫子は立っていた。
食堂へ戻る気は早々起きないし、自室に戻って雲雀と顔を合わせるのもいやだ。
倫子にとってこの場所は、避難所でもある。
太陽は見えない。
発光する白雲がただ眩しいだけ。
腐敗した海からは臭気が流れ込んでくる。
それでも人の気配のないこの場所は、倫子には心安らぐ場所だ。
(…また、雨になるかな)
水平線の彼方に漂う黒い空を見やり、憂鬱の溜め息が出る。
この首都圏は、先の大戦で一番被害を被った場所だった。
文明の進歩が集中していたこの場所で、青空が見られることはない。
(私の生まれた田舎じゃ、昔は晴れていたらしいのになぁ…)
それだけ地球の状態が悪化しているということだろうか。
なににしても、この場所は田舎と比べて格段に空気が悪い。
大気中に、体に悪い毒素が含まれているように感じる。
(この景色は嫌いじゃないけど)
視界一杯に広がる海は圧巻。
例え汚染されたものだとしても、寄せて引いてを繰り返す波を見れば、この星がまだ生きてることを実感できる。
(あぁ、苦痛だ。雲雀と一緒に居なきゃならないのは、思っていた以上に)
昨夜の仕打ちを思い出して、痛みを知る顔が歪む。
秘密を孕むこの体を痛めつけて吐き出させようだなんて、安直で無粋な真似をよくもする。
(クソサディスト…!)
苛、としたまま目の前に転がる石ころを睨みつけた。
雲雀に見立てて、無意識に深く集中する。
思うことは、ひとつ。
―――くたばれ!
パ、キッ。
「……」
ひびが入っただけで終わった。
なんだかもう、溜め息しか出ない。
この程度の力しか使えないのに、なんであんな痛い目に合わなきゃならないのだろう。
あんなに辛く痛い思いをして耐えて耐えて耐え抜いたのに、仕上がった「私」はただの出来損ないだった。
(…それなのに)
雲雀も研究者達も、皆、倫子を責め立てるのだ。
(大体、雲雀に責められる筋合いなんかないっつの)
大元はお前のせいなのに。
(私が今こんな所に居るのも、あんな酷い目に合ったのも、これから先の希望を奪われたのも、みんなみんな、……)
「お前のせいなのに」
虚しく吐き出された科白は、白く淡い空に飲まれた。