AEVE ENDING
『橘…倫子さん、かしら?』
しかし私の安堵はすぐに崩された。
かた事務的な声が、私の名を呼ぶ。
振り向こうと体を反転して──そこで意識は途切れ、次に目覚めた時には記憶が飛んでいた。
『……しかし、…、こ…は』
人の声だ。
朦朧とする意識がゆっくりと浮上する。
いつのまに眠ったのか。
(───違う、眠らされた)
瞼が重い。
目を開けたいのに、開かない。
瞼越しに強いライトが当てられていることがわかる。
周囲の空気に刺激臭が混じる。薬品の臭いだ。
それに、肌寒い。
(洋館の一室…?)
寝かされている。
でも、ベッドじゃない。
硬く冷たい、病院の寝台のようなものを背中に感じる。
それから、人の気配。
『…橘倫子。ふむ、体は健康だな、丈夫そうだ』
すぐ傍で嗄れた男の声がするが、気配はひとりだけじゃない。
『…しかし、この値はなんだ。アダムですらない完全な人間を弄ったところで、成果が得られるのか』
カリカリ、執筆する音がする。
(…なに?)
『だからこそ、意義があるのだ』
───神に背いた罪深き生物を、神に還すのが我々の仕事だろう。
(なんの話?)
目を開けて問えばいいのに、何故か異様な空気を感じて狸寝入りを決め込んでしまった。
自分の置かれた状況を、現実を目の当たりにするのが、怖かったのかもしれない。
カリカリ。
ペンが走る音と三人の息遣いが耳につく。
得体の知れない恐怖に、全身が粟だった。
(箱舟はアダム養成学校の筈だ。…なんで、こんな)
今自分の体を囲んでいるらしい三人の男達の会話が、理解できない。
(私のこと、人間、って)
どういうこと?
『起きてるのだろう』
不意に声が掛けられた。
一瞬誰に向けられた言葉か迷うが、狸寝入りがバレていたのだと観念する。
ゆっくりと開けた視界に、眼球を焼ききるような強烈な光が直射した。
『眩しい』
『…あぁ、すまんな』
開けた瞼をもう一度下ろして苛立たしげに言えば、すぐにライトは逸らされる。
それを確認して、もう一度目を開けた。
―――映ったのは。