AEVE ENDING





昔から、彼らが苦手だった。

虫が好かない、と同義であるそれ。
しかしそれは、「両親」である彼らに向けるには相応しくなかった。


「───あぁ、そうだ。君に話しておくことがあった」

高級なカップから紅茶を啜る紳士が、こちらを真っ直ぐに見る。
日本人にしては色素の薄いその瞳は、雲雀のそれとは似ても似つかなかった。


「あの子がとうとうアダムとして覚醒したのよ」

淑女が、鈴が鳴るような声で笑う。


―――「あの子」。

雲雀はその単語が出て初めて、彼らの話に僅かながら反応した。

「…彼は、体の方はどうですか」

極力、不愉快な顔に崩れてしまわないように努めながら。

「医院での治療中に覚醒したらしいのよ。お陰で体が少し頑丈になったみたい。貴方に会いたがっていたわ。貴方を心から慕う子ですもの」

「あの子」、と呼ばれる人物は雲雀が唯一不快に思わない人物でもある。

雲雀に最も近しく、しかし最も遠い存在。



「でもまだ、箱舟への収容は待って頂いているの。すぐ倒れるような子だったから、まだ少し心配で」

淑女がその柳眉を垂らすと、悩ましげで、不穏な甘さが漂った。

(橘はこんな表情、絶対にしないんだろう。…というか、できない、か)

けれどだからこそ、扱いが楽なのだが。

女を匂わせるような露骨な異性は、雲雀にとって不純物でしかなかった。
ただ不快に感じるだけの、救いようもない生き物。


「賢明な判断だと思います。今、無理をさせてもプラスにはならない」
「雲雀さんがそう言って下さるなら安心だわ。あの子が箱舟に収容された時は、お願いね」
「…わかりました」


―――憐れだ。

渦中の人物に、少しばかり同情する。
温室で穏やかに暮らしていることが、似合っていたのに。




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