AEVE ENDING
「橘」
その様子に、言葉では届かないと判断した。
倫子の周囲を囲む資材に乗り上げ、俯いて嗚咽を零しているその襟首を思い切り引き上げる。
「…っ」
ズルリと濡れた音を立てて、小さな遺体が膝から地面へ転げ落ちた。
半焼死体の爛れて剥がれた皮膚が、倫子の膝にこびり付いていた。
毒々しいまでに赤い流線がその骸を抱いていた太股を伝う。
「っ、ぁ」
転がった小さな体に縋りつこうとする倫子を資材から力づくで引き離すと、雲雀は浅く息を吐いた。
「…死体を抱いて泣き続けるより、他の生存者を探す方が効率的だよ」
(…解ってはいるんだろうけど)
ただ気持ちが追いつかないでいる。
失った気力。
それでも、なにを優先すべきか解っている筈なのだ。
(君は馬鹿だけど、馬鹿じゃないからね)
ぶらりと脱力した倫子は、雲雀の腕で釣り上げられた人形のように動かなかった。
「橘」
なんの感情も含まない声が倫子の名を叩く。
「……ひば、」
懺悔の念が喉を詰まらせたかのように一声泣いて、倫子は雲雀にしがみついて泣いた。
慰めを期待したのか、或いは縋りつかずにはいられなかったのか。
雲雀の胸を無遠慮に濡らしながら、倫子はしゃくりを上げ続けた。
頭を撫でてくれるような優しさや慰めはなかったが、それでよかった。
―――ただもう、なにも見たくなかったのだ。
ひくりひくりと動く肩を、雲雀は無感動に眺めていた。
こうして恥も外聞もなく泣き叫ぶ人間の心理は到底理解できそうもない。
(それに)
なんでこんな簡単に、縋りつくことができるのか。
(パートナーとはいえ、何度か僕に殺され掛けたこともある癖に)
嫌だな。
人間臭い。
弱い生き物の臭いがする。
(僕が厭う人間臭さを、橘は自然と有している)
───汚い。
こんな、弱い生き物。
(僕が興味を持ったのは、こんなつまらない生き物じゃないのに)
胸に沸き上がる嫌悪が、倫子の体を引き裂こうとしていた。
(血が見たい…)
視線を下げれば、俯いた倫子の項が震えている。
施術の痕が所狭しと走る柔らかな皮膚に自らの犬歯を立てて、肉を、血管を、噛み千切ってしまいたい。