AEVE ENDING
「…橘、離れて」
胸に埋もれていた倫子の肩を押しやり、雲雀は一歩、足を引いた。
(…気分が悪い)
周囲に充満した死臭のせいなのか。
沸き上がる破壊衝動を抑制するのは初めてだからか。
意地悪で突き放されたわけではないらしいその様子を敏感に感じ取った倫子は、なにを言うでもなく自らも雲雀から数歩離れた。
蔓延した様々(ようよう)な煙が潮風にゆるりと動く。
赤く熟れたエリア内の空気が空に滲み、夜空が明るく焼けていた。
それを背景にしたこの惨状で、二人はただ、口を噤む。
足下の火がはぜた。
パチパチと弾ける火の粉が、倫子の泣き面を醜く歪めていた。
「…あいつらは」
やがて気が付いたように口を開いたのは、倫子だった。
問いと共に上げられた顔からは既に涙が引き、その眼は充血してるとはいえ、いつものように強く在る。
それに自分でも気付かぬほどの安堵を感じたことを、雲雀は無視した。
「仇討ちでもする気?殺されるよ」
倫子を見やり、雲雀は冷たく言い放つ。
彼女の身を案じての言葉というより、ただ事実を口にしたまで。
「…でも、」
けれど倫子は苛立たしげに反論する。
スカートにべったりと付いた血液が、酷く醜悪に目に映った。
「あの子供を君が可愛がってたのは知ってるけど、感情だけで突っ走って無駄死にしたら君はただの間抜けだ」
君みたいな間抜けがする仇討ちは、大抵しくじるものだよ。
「……っうるさい!そんなこと言われなくても、わかってる…!」
強い眼孔がこちらを射抜く。
けれどその口は、甘っちょろい言葉ばかり。
「わかっていて、するの?尚のこと馬鹿だね。死んでもなおらない」
「…っクソ野郎が!あんたにこの気持ちがわかってたまるか!」
唇を噛み締めた倫子の暴言を、雲雀は鼻で嗤う。
「そんな下らない感情、解りたくもない」
「…っ、」
吐き捨てれば、倫子が感情任せに腕を振り上げてきた。
互いに距離を置いたとはいえ歩幅数歩分しか離れていない雲雀の顔面めがけて拳が飛ぶ。
「…そうやってすぐ激昂して牙を剥く相手を履き違えるのも、愚かの極み」
その拳を軽く受けながら、雲雀は倫子に嘲笑を向けた。