AEVE ENDING





「シャワー、浴びておいで」

テレポートで箱舟の自室に戻ってすぐ、
雲雀は息吐く間も与えず倫子に言い放った。

あの惨状の中、煤と血にまみれた倫子とは対照的に、雲雀は腕の負傷以外、特に汚れていない。

まっさら。

「…なんか雲雀の口からシャワーって単語が出るとやらしいよね」
「その低俗な脳味噌を今すぐぶちまけてもいいんだよ?」

ベッドに腰掛けた雲雀が、爽やかに笑う。


「………ぅえ、想像した。吐きそう」
「馬鹿言ってないで早く行きなよ」
「…うん、ありがと」

(…雲雀に後押しされるなんて、なんか笑える)

なんだかんだ言って、実は一番のお人好しなのかもしれない。
考えて、少しばかり、いやかなり、美化しすぎだと考え直す。

(…でも、あんなこと言いながら子供を邪険に扱わないし、なんだかんだいって、まぁ、優しい…っちゃぁ、優しいの、かも………いやいや待てよ、自分。なんなのさっきから。馬鹿みたいに雲雀のイイとこ探ししてるみたいにさぁ)


きっと、理由を探しているのだ。

···
この私が、雲雀に親近感を抱く理由を。



「馬鹿か、私」

カピカピに乾いた血液が肌を突っぱねていた。
それはまるで倫子自身の心の痛みに似て、なだらかにはならない。

痛い痛い思いをして、今の「私」が在るというのに。

(馬鹿みたいに慣れ合って、殺されかけて傷付いて、また、懐柔されて)


「…あぁ、もう」

お湯で濡らしてみても、血液は簡単には落ちない。
まるでこの身体に食い込んだ、穢れた染みみたいに。

「頭、痛い…」

薄い桃色がゆらゆらと水になって排水溝から流れ落ちていく。

───あぁ、あの子の痛みは、こんなものじゃなかった筈だ。


「…ごめんね」

悲しみが浅い。

涙は出尽くして、痛みは既に稀薄になり、私から出て行ってしまう。

薄情な人間だ。

醜い。

私、は。




目頭が熱かった。

これはあの子の死を悼む涙じゃない。
己の卑劣さを自ら嘆く涙だ。


あぁ、私は、なんて。


汚い。





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