AEVE ENDING
(冷たい床に、薔薇を手折って…)
母は悲しむだろう。
赤い花びらの死骸。
けれどそれが、彼女の目に入ることはない。
気に入っていた洋書を破り棄てても、美しい薔薇園を破壊しても、主ふたりがそれに気付く前に、使用人達がもとに戻してしまう。
まるで時間が止まった世界のように、変化はない。
ただひとつ、幼い雲雀にとっての、大きな変化といえば―――。
「…ひばり?」
パサリと衣擦れがした。
視線を下げれば、眠気眼でこちらを見上げる倫子の顔。
「起きたの」
「…そりゃ、おきるよ。なにしてんの、ひとのへやで」
呂律が回ってない。
「夕食。僕が起こさなきゃ、君は食べもせずに寝続けただろうね」
手にしていた写真をぱらりと床に落とせば、その視線が揺れる。
「…あー、しゃしん」
だから、呂律が回ってないってば。
「自分の部屋くらい片付けたら。大事なものなんでしょ」
「うん…、だいじ」
倫子が眠気から解放されるように、ゆっくりと瞼を閉じる。
もとより開いてたなんて言えないが。
「ゆめみてた」
「なんの」
尋ねれば、ふふ、とのびやかに笑う。
「おかしな夢。実家にね、何故か雲雀がいて、弟達とご飯たべてんの」
「…コメントしずらい」
「…っぶは、笑える」
いまだ寝ぼけたまま、倫子が力なく、けれど屈託なく、笑う。
右腕には力が入らないらしい。
ぶらりとシーツに染みる赤が、がさつな彼女から滲み出たとは思えないほど綺麗だ。
「…痛むの?」
気遣うつもりは毛頭なかったが、気付けばそんなことを口にしていた。
(僕は最近おかしい)
「…自分で痛めつけといてなにさ、ばか雲雀」
悪態すら気に掛からなくなった。
我ながら気味が悪い。
「早く起きたら」
「…ん、」
腕を伸ばされた。
無事なほうの腕を。
「…なに?」
意図が解らず首を傾げれば。
「起こして」
なにこれ、殺したい。
「…言っておくけど、僕は君が夕食を食べれなくても構わないんだよ」
「いけずー」
「うるさい」
背中を向ければ、背後でちゃんと起き上がる気配。
ぎこちないのは、痛む腕のせいか。
(───あぁ、だから、手を貸してやろうなんて、まさか)