AEVE ENDING
(…大丈夫。僕に委ねて)
真上から、倫子を落ち着かせようと静かな声が降ってくる。
少しの加減が加わったのか、掌と頬を融解してしまいそうだった高熱が、その猛威を少し緩めた。
(あったかい…)
自分のものとは違う掌から、咥内、歯茎、舌根、喉、脳味噌、心臓、脊髄、腰骨…と、自分のものではない熱が流れていく。
まるで血管を、温水が流れてくようだった。
決して気持ちのよいものではないが、雲雀の指先だけの冷たさに、救われた。
(橘、)
(たちばな…)
頭の中に直接響く声が、少しずつ少しずつ大きくなっていく。
見上げる雲雀の真っ暗な眼が世界を反射して、不細工な倫子の顔も映し出していた。
(すいこまれそう…)
まるで脳味噌の中で鐘を鳴らされているようだ。
意識が混濁して、集中しようとしても思う端から霧散する。
目眩がするのに、けれど暗い色の瑪瑙から、視線が外せない。
「…橘」
肉声が鼓膜を震わせるが、先程流れ込んだ熱が体を怠惰させて反応できなかった。
(…少し、痛むかもしれない)
頭の中で雲雀が念を押す。
以前なら断りもなく、行動に移していただろうに。
大丈夫、と答えようとしたが、頭が融けきってテレパスを飛ばすことも喋ることも、頷くことすら、できそうになかった。
濁濁とした意識が、なにか巨大なものに飲み込まれ、融けていく。
「…おい、今、どうなってんだ?」
放心したように脱力しきった倫子を、心配げに真醍が見ていた。
「橘の意識を少しだけ借りてる。今の橘は、自分の力で喋ることも動くことも、できない」
「次は体の支配…、だね」
そんな男達の会話を夢うつつで聞きながら、倫子は頬の筋肉を少しだけ痙攣させた。
それに気付いた雲雀が、再びこちらを向く。
(…今から君の神経を麻痺させて、僕の脳に直結させる。―――少し我慢して)
うわ、痛そう、嫌だな。
でももう、肯定してしまったし、第一、もう拒否なんてできやしない。
―――ああ、雲雀の小鼻って間近で見てもきれいなんだけど一体どんな洗顔料使ってんのかな、アダム候補生の日用品は、箱舟支給しか使えないけど、こいつ良いとこのボンボンだし、もしかして高級なの使ってるかもしれないから、今度、洗顔シーン盗み見みてやろう、なんて考える端から散り散りになる思考で考えていた。