AEVE ENDING
───君は家畜にすら本気で手を掛ける修羅だが、大陸にはどんな虫螻でも遊戯のように長く時間を掛けて、じっくりと潰す神が存在するそうだ。
まるで民謡のように、幾田はそう切り出した。
「…ええ、その鐘鬼です」
朝比奈が俯く。
緩やかな睫毛が弧を描いて陰になった。
(怯えるばかりの家畜を相手に、愉しめるわけがない)
雲雀とその鐘鬼という名のアダムとの差異はそこにある。
(───怯えおののく様を潰すことは心地良いけれど、歯向かってこない者を相手にするのはつまらない)
「その鐘鬼が留学してきて、それがなんなの?」
どちらにせよ雲雀にはあまり関係のないことのように思う。
面倒が与えられるなら、家畜に譲ればいいことであるし。
いい加減こちらは先に進みたいのだと視線を向ければ、朝比奈は申し訳なさそうに再び口を開いた。
「中国箱舟のトップが、鐘鬼のペア役に雲雀様を所望しています」
―――あぁ。
「…そういうこと」
息を吐く。
ならばそれは、欠員が出るということだ。
(手回しが早いね、相変わらず)
策略を良しとする二人の美しい男女が思い出され、雲雀は筋違いに嘆息した。
(全く、馬鹿馬鹿しい限りだ)
なにをそこまで畏れているのか。
あんな継ぎ接ぎの、脅威にすらなりえないような生き物を。
黙り込んだ雲雀の前から、話は終わったというのに朝比奈は姿を消さない。
「まだ、なにか用?」
視線を傾ければ、夜闇に発光しそうな白い首筋が目に入った。
その首筋が揺らいで、朝比奈が雲雀を見上げる。
「……雲雀様は、それで構いませんの?」
微かな動揺を見せて、朝比奈は視線を惑わす。
「……?」
なにを、おかしなことを。
「拒否権はないんでしょ?」
「そうですが…」
「なら、そんな顔しないで。こんな下らない事にいちいち反するつもりはないよ」
口調を詰めれば、朝比奈は一歩だけ足を引いた。
そしてすぐ頭(こうべ)を垂れ、その場を去ろうとする。
赤い痣が垣間見える首筋をもそのまま、朝比奈は足音も小さく、雲雀の前から消えた。