AEVE ENDING





雲雀の腰に脚を巻き付けて、その細く白い首に腕を回して引き寄せて、そしてその美しい手で後頭部を抱えられて、引き合うように、唇を合わせて。


「───…冷たい、」

愚痴を零せど、それを改善してくれる素振りはまるで見せない。

息を、熱い息を吐き出して。
それを互いに飲み込み、それから。


「熱い…」

浮かされたように呟く雲雀の、その憂うような声色にそそられて、身が凍るような冷たさを掻き消されて。

そういえば、こんなことするのは互いに初めてなのだと、思い出す。

おどろおどろしい水飛沫が互いを、皮膚を、心を汚していってしまう。

唇の形が変化するほど睦み合って、そして、なにも考えられなく、なって。


―――中毒だ。




(なにも、考えなくていい)

この体と精神を厭う忌まわしい感情も、この男に対する焦がれるような嫉妬と虚しさも、それから。



「―――に、もどれそうな気がする…」

ようやく雲雀が唇を離した時、眼下に組み敷いた倫子は息も荒くそう漏らした。

冷たい空気と海水に身を浸していながら、その弛緩した頬は赤い。

「…そう」

その言葉がなにを指しているのか、考えるまでもなかった。

未だ、砂浜に横たえたままの背中に回していた腕を解けば、それを合図に、倫子はゆっくりと身体を起こす。

「…まさか、あんな形で縋られるなんて思わなかった」

その濡れた唇を眺めながら、素直に言い捨てれば。

「…、」

気まずそうに口を噤み、雲雀から視線を外す。

(照れてるの?)


「あんなことしておいて、今更だよ」

こんな下らない馴れ合いに夢中になり、そのまま流されるなんて。

その泣きそうな眼も、青ざめて濡れていた唇も、それから、痛々しいまでに脅えた体も。


(……慰めずにはいられなかったなんて、)

馬鹿馬鹿しいのは、僕もか。




「…だって、初めてだったのに」

照れているのか拗ねているのか、倫子は小さく唇を震わせて、足を踏みしめた。

海水を吸って重くなった衣服が、醜く音を立ててその肌に張り付いている。

完全に濡れネズミだ。




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