AEVE ENDING
「…謝るの?」
唇と舌と脳髄に残る安堵感は、まだ。
「…そ、りゃ、謝るけど」
不安がっていたのは私ひとり。
目の前の雲雀に無様に縋りついて、泣きつく代わりに。
(恥ずかしい…)
自ら求めた体熱を、雲雀に課せて。
「…どこでそんな縋り方、覚えたかな」
ふ、と溜め息混じりに吐かれた息が倫子の前髪を擽る。
鼻腔に触れた吐息から海水の香りが漂い、恥ずかしさのあまり泣きたくなった。
「…だ、って」
見上げた雲雀の、綺麗な肌の表面。
それが今は発光する灰色に染まって、さらさら靡く黒い髪は、倫子が浸かる夜の海と同じ色。
その薄い唇は、先程までの熱情を冷ますように、息を吐く。
(なかったことにしたい…)
海水に浸かる下半身は、まるでこの身体を夜に縫いつける枷だ。
(早く、どいてよ)
そして身動きできない倫子を更に拘束している、美しいな男に懇願する。
(───頼むから、はやく)
目の前から消えて欲しい。
誰にも見られたくないところを、見られた。
それも、一番望まない男に。
なにより、吐露した劣情も。
(全部全部、なかったことにしたいのに)
―――それは、叶わない。
「…ひばり、退いて」
その濡れた胸に手を置いて、距離を開こうと試みる。
けれど雲雀には、退く意思すらなかった。
(―――見るなよ)
ひた隠しに出来ない醜さが、まるで一枚一枚皮が剥かれるように露わになってゆく。
そんなもの、このまっさらな男には見せたくなかった。
「ひばり、」
「…まだ、終わりじゃないよ」
落とされた言葉に、息を飲む。
「…雲雀、」
───それは、或いは期待していた言葉なのだろうか。
ぞわりと背中を撫でる、冷たく柔らかな指が。
「…は、」
息が交わる。
まぐわうなんて温い言葉じゃ表せない、まるで動物の交わりみたいに。
口付けだけ。
噛みつくだけ。
抱き合うだけ。