AEVE ENDING



「あんたより朝比奈会長のほうが雲雀様にはお似合いよ!」
「引っ込め顔面凶器!」
「アダムのなり損ないが神の隣に立っていいわけないでしょう、恥知らず!」

無謀な采配に対する生徒達の不満が、矛先を倫子に向けて一気に爆発した。
根本の原因はそれを導き出した奥田であって倫子ではないというのに、生徒達には関係ない。

彼らにとって重要なのは、自分達が尊敬し、厚く信望する雲雀のパートナーが、アダムの風上にも置けぬイヴであり、雲雀を軽んじる女であったこと。

怒りのあまり言葉も出ない倫子は、唇を噛み締めて一斉発起した生徒達を睨みつけている。
教師達はやっとこさ我に返り、騒ぎ始めた生徒達を宥めようと躍起になっていた。
しかし生徒達の怒りは凄まじく、このままでは暴動も起きかねない。

その時だった。



「煩い」

そんな生徒達を、教師陣が止める前に一言で鎮めたのは。

「雲雀様…」

声を張り上げたわけでもなく、ホール内に浸透したテノールに生徒達が一斉に口を噤む。
水を打ったように静かになった周囲が戸惑いの眼差しを向ける、雲雀、その人である。


(…なんだこの差!)

一言で群集を黙らせた雲雀に、倫子は言いようのない不満を抱く。

「落ちこぼれと組まされる僕を憐れむなんて、生意気だよ」

雲雀の眼光が緩やかに煌めいた。
それは底冷えしてしまうほど玲瓏で、不気味だ。

少しだけ長い前髪から覗く切れ長の眼が、静まった生徒達に向けられる。
全員、蛇に睨まれた蛙の如く微動だにしない。
教師すら口を噤んで、黙ってしまった。


(これはあまりにも不公平じゃないか…?)

「神」と呼ばれたからといって、同じアダムであり、年齢だって変わらない。
カリスマ性を持ち合わせているのも確かだろうが、それでも同じアダムなのに。


(…ムッカー)

なにより朝比奈。
雲雀に叱咤されたくらいで涙ぐむなんて、なんだそのザマは。

「つまらない服従心ほだされてんじゃねーよ、カスが」

倫子のささやかな悪態が耳に届くと、雲雀は群集から倫子へと一瞥をくれた。

それはやはり冷ややかで在りながら、底で仄かに光る。
静謐を思わせる蒼みを帯びた黒に圧倒されながらも、倫子はその眼を睨み返した。

蛇に睨まれた蛙にはなりたくない。

(だって意地がなきゃ、私は本当の落ちこぼれだ)



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