AEVE ENDING
「修羅に全部バレたって聞いたわ。大丈夫なの?」
倫子の痛んだ髪を梳きながら、ササリが窺い見つめてくる。
少し茶色い瞳には心配げな色が浮かび、倫子の心を柔らかくした。
「奥田は大丈夫だって言ってたけど…、まさか騙されてないわよね?」
「ちょっとちょっとササリさん。俺を信用するってあなた言ったじゃない」
「あんたの言葉なんか信じてたら間違いなく私は人生の道を踏み外すわ。だから死になさい」
「ぶっ飛んだな!」
疑り深いのは昔から。
心底から心配している目に、笑ってしまう。
(騙されてる?私が?)
考えて、また笑ってしまった。
そういえば最近、奴の態度がおかしいだとか、そらぞらしいだとか、―――ササリと同じように考えている自分がいたのか。
(…バカタレ)
「平気。あいつは騙すような回りくどい真似、絶対しないから」
そう言いきった倫子を、ササリは母親のような目で見た。
―――そうだ雲雀は、正面きって私を受け入れてくれたのだ。
奥田やササリが持つ罪悪感や自己嫌悪とは全く違う次元で、倫子を見てくれた。
(それでいいじゃないか)
なにを今更、不安に思ったりする?
「鳶が鷹を産むとはこのことね」
―――ふう。
回廊と地面の段差に腰掛けて、溜め息を吐きながらの意味不明な台詞。
「なんの話?」
脈絡があったのかなかったのか。
呟いたササリに問えば。
「雲雀くんの両親の話」
問うたササリの代わりに、奥田が答えた。
「雲雀の両親…?」
寝耳に水の言葉に背筋が凍る。
憎んでも憎みきれない因縁のふたりを何故、奥田は口にしたのか。
施術の痕から肉が抉り出されたように、ツキリと痛んだ。