AEVE ENDING
「―――しかし、人選ミスだったな」
桐生がさも愉快と嗤う。
その通りだった。
「あの夫妻ははずれだった。不妊に悩む妻と、早くに後継者を欲しがった夫。不仲を解決するせめてもの、という計らいでもあったが…」
「互いに直向きに子を欲しがってはいたが、結局は養子という壁を乗り越えられなかった―――まあ、アレが養子なら当然だろう」
そうして、絶海の「高層ビル」から一般家庭へと入った神の子は、「雲雀」と名付けられたのだ。
それまで彼に名前はなかった。
『不自由はしていない』
たった一度だけ、彼を呼び出して話を聞いたことがあったが、雲雀の報告はその一言で終わった。
新しい生活は、あまり情愛に満ちたものではなかったらしい。
夫は自分より美しい息子に嫉妬し、妻はうまくいかない父子の関係に悩んだ。
雲雀を投下して寧ろ、不仲は激化したようだった。
「なによりあの性格だ。理解されぬことも多々あったろうよ」
「…無理をさせたと思うかね」
「ふん。アレにそんな概念などあるまい」
語り継ぐのは、あの子が我々の子であるように思うからか。
桐生は直接的に教育に関わってはいなかったが―――だからこそ雲雀の記憶にもあまり刻まれていないらしい―――、その地位を以て衣類食料の調達、或いは書物を与え、慶造も仕事の合間を縫いながらの子育てに没頭した。
とはいっても、育児というほど手間の掛かる子でもなかったが。
あのビルで、「神」と過ごした数ヵ月は、あまりに早く過ぎ、あまりに濃厚だったのである。
永く永く生きてきたが、あんな特殊な時間を過ごしたのは、慶造も初めての体験であった。
「…真鶸が産まれて、多少の庇護欲は知ったようだが」
雲雀が八つを迎えた頃、雲雀を養子にした夫妻に待望の我が子が産まれた。
名は真鶸。
愛らしい赤子だった。
生まれつき病弱のその子は、あまり会えない両親より雲雀に懐き、雲雀もその子にだけは笑みを見せるようになっていた。
面白いことに、真鶸は血の繋がった実の両親より、全く縁(えにし)のない雲雀に似ている。