手紙
 あなたはこのとき、一瞬でも彼女のことを考えたでしょうか。朝早くから起きて、あの人のためにおにぎりを作った彼女のことを、考えたでしょうか。考えていませんよね。それがあなたですから。



『終わった、と思った。もう私には何もない。周りは私を悪者だと思っている。あの子の敵だって。
 あの子の敵は、本当に私なの?
 彼は今までにないくらい、きれいに微笑んでいた。彼女のことが好きなんだろう。試合になんかついて来てもらうんじゃなかった。後悔先に立たずとはこのことだ。
 明日から学校に行きたくない。でもそんなことを母に言えば、何をされるかわからない。
 怖い、怖い、怖い。
 何が「大丈夫」よ。あのクソ女、調子のいい嘘つきやがって!
 大丈夫なんかじゃなかった。大丈夫なんかじゃなかった。大丈夫なんかじゃなかった。彼に嫌われるどころか、全部なくなったじゃないか。
 私の存在価値も、全部。』
 私はこれを読んだとき、あなたの浅ましさにゾッとしました。まさかあなたが彼女に対して、「大丈夫」という言葉を使い、さらにはその言葉ごと裏切るような真似をしていたなんて。
 考えもしていなかった事態に、私まで狂いそうになったのは言うまでもありません。
 大丈夫。
 それは戒めの言葉。
 大丈夫。
 それは無責任な励まし。
 大丈夫。
 それは呪いの言葉。
 この呪文によって、彼女は幻想という悪夢を見せられていたのだと、私はこのとき知ったのです。
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