手紙
 ここで聞きますが、あなたは普段から「大丈夫」という言葉をどのように捉えているのでしょう。
 おそらくそれが、恐ろしい力を持っていると言っても、あなたは馬鹿にして笑うのでしょうが、本当にこの言葉には恐ろしい力があるのです。
 その力は、今はきっとわかってもらえないでしょう。
 とにかく、彼女は次の日から無口になりました。
 活発的な彼女の面影など、どこにもありません。スポーツ万能と、成績優秀以外は全て彼女からなくなりました。彼女は好きな人に嫌われるどころか、人間としての価値を失ってしまったのです。
 少女漫画なら、ここで終わりでしょう。
 結ばれてハッピーエンド。しかし、ここで終わらないのが現実なのです。
 彼女への風当たりは、日に日に強くなっていきました。獣による狩りというものです。どういうわけか、私は彼女にべったりだったのに何の被害も蒙りませんでした。私という人間は認識されていなかったのかもしれません。平凡であることが幸いしたときでした。あまり喜べませんでしたけど。
 彼女の口数は、日を増すごとに減っていきます。彼女の好きな作家の話をしても、全く乗ってきてくれません。
「今日、家に遊びに来ない?」
 その日、彼女は久々にはっきりとした物言いをしていました。
「ごめんね、今日は用事があるの」
 ここで少しはおかしいと思うべきでした。しかし私は彼女の勢いに気圧され、ただ頷くしかできなかったのです。
 あとは、あなたのほうがよく知っていることでしょう。
 彼女はあなたの目の前で、飛び降りたのですから。
『私は明日、あの子ともう一度話してみようと思う。だけど話していて無駄だと感じたら、そのときは最終手段に出る。
 このまま終わる私じゃない。』
 長いもので、あれから五年も経ちました。彼女はまだ眠り続けています。もう目は覚まさないかもしれないと先生は仰っていますが、私は目を覚ますまで待ち続けようと思います。
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