手紙
 私もつくづく偏見の抜けない奴ですね。
 暗い部分を見ただけで人間らしいと思い、明るい部分を疑う。裏も表もその人の全てだとわかっていながらこの様です。情けないったらありません。
 いえ、むしろ、ホッとしたのでしょうか。彼女にも、私と同じように人には言えないような暗い部分を持っていたことが。不謹慎ですね、本当に。
 あなたは今これを読んで何を思っているでしょうか。きっと、私や彼女のことを悪とでも思っているのかもしれませんね。幸せな人。
 あなたにとって悪は、何なのですか?
 私には、あなたを無用な言葉で八つ当たりことはできても、裁くことも、復讐することもできません。私は彼女ではないからです。裁くことも、復讐することも、彼女以外できません。
 残念ながら、彼女はまだ目を覚ましそうにありませんが。
 彼女が目を覚ますまで、私はあなたに手紙を書き続けます。
 先述の通り、これは言い様のない怒りを持った、馬鹿な人間の八つ当たりです。ですからあなたがこれを読むも読まないも自由ですし、これを捨てる捨てないも自由です。
 それでも私は書き続けます。少なくとも、彼女が目を覚ますまでは。



 自分を嫌いな人間だろうと、好きな人間はできます。
 彼女がなぜあの人を好きになったのか、私には理解できかねますが、人の好みの問題にとやかく言うことほどくだらないことはないのでやめておきます。
 きっかけは、この一言でした。
「彼、今度誕生日だから、何かあげたいと思うんだけど……どう思う?」
 彼女の顔から、「いいじゃない」という肯定の言葉を求めていたことはすぐにわかりましたので、一言一句間違うことなく私は肯定の言葉を発しました。案の定彼女の頬は桃色になり、目はきらきらと輝いているようだったのは言うまでもありません。
 とてもめんどくさい、そう思いました。
 こういうことに関して、私は彼女にアドバイスできるほどの知識はもちろんありませんでしたし、彼女もそれはわかっていたはずです。つまり彼女は、ただ肯定の言葉を発してくれる人間を求めていたのでした。
 相談する人間のほとんどが、相談する相手に求めているものは「自分を肯定してくれる言葉」です。意見などではありません。自分を肯定してくれれば、それで充分なのです。

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