手紙
 それってすごく勝手だとは思いませんか? けれど、自分のでき得る限りで相手の求めるものを与えてやることが、ある程度人間関係を良好に保つ条件だと思うのです。もちろん、与えるだけではいけません。相手からも同じだけもらう。人生はギブアンドテイク、いい言葉ですね。
 なのにあなたは、つまらない正義のために、余計なことをしてしまったのです。彼女が求めていないものを、さも求めていたかのように、さらには恩着せがましく彼女に与えてしまいました。それが知らず知らず彼女にとって重荷になっていたことを、あなたは理解していたのでしょうか。
 もしあれが全て計算ならば、私はあなたを尊敬します。けれど、きっと違うでしょう。あなたはそこまで賢くはありませんから。
 あなたが最初に彼女に与えたものを覚えていますか? もう忘れているでしょうね。彼女はあの人の誕生日のために、手作りのクッキーを用意しました。彼女は料理が得意でしたし、考えた結果がそれだったのでしょう。恋は女を平凡にするようです。いえ、あるいは、頭のネジを緩めてしまうのかもしれません。
 けれど、あなたはそんな彼女に、第一の死刑宣告をしたのです。
「彼、甘いものは苦手らしいよ」
 彼女は結局、そのクッキーは渡さず、あの人の誕生日はそのまま終わりました。あのクッキーは私が責任を持って処分をしましたよ、彼の下駄箱の中に。それからのことは知りません。
 彼女はそれからも、何度かあの人についての相談を持ちかけてきました。彼女には申し訳ないのですが、正直くだらない内容ばかりです。彼女があの人のせいで平凡な女になってしまったことが、私はとても残念でした。
 少女漫画のヒロインの想い人は、大抵完璧ですが、どこか一つ人間として未成熟な部分があり、そこをヒロインが補おうとして恋に発展することが多いようです。もしそれが現実世界であり得るならば、そこら辺カップルだらけでしょうね。
 あの人にとって未成熟な部分、それはあの人のプライドそのものにありました。
 あの人は自分の器量に見合わないプライドの高さでした。と言うのも、あの人は自分より優秀な人間を毛嫌いしていたのです。おそらく、自分の愚かさを認めたくなかったのでしょう。


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