手紙
 そのくせ、彼はことあるごとに馬鹿を見下していました。本当は馬鹿といるのが大好きなくせに、です。馬鹿を見下すことで、自分の優秀さを誇示したかったのでしょう。反吐がでます。
 あなたは今怒っているでしょうか。自分の傍にいる人間をここまで言われて、黙っている人間などいませんしね。……私の予想では、全く怒っていない、ですが。理由など言うまでもないでしょう。
 いえ、前言を撤回します。本当は怒っているかもしれませんね。あなたのことを馬鹿と言っているのも同然のことを言いましたから。
 しかし、私は訂正するつもりはありません。あの人は、馬鹿といるのが大好きなのです。今も、昔も。
 彼女の努力はそれでも続きます。彼女には人を判断する能力が著しく欠けていたのですから仕方ありません。
「日曜日、サッカーの試合、見に行こうと思うんだ。差し入れは何がいいかな。おにぎりとかなら食べられるよね?」
 平凡、平凡、平凡。平凡すぎる。
 私は平凡が嫌いです。とは言え私は平凡の代名詞のような生活しか送ったことがありませんが、それでも平凡が嫌でした。彼女といたのは、平凡から抜け出せるかもしれないという淡い期待を抱いていたからです。結局、身の丈以上のものなど得られることはない、とわかっただけでしたが。
 あの人に夢中の彼女は、本当に平凡でした。いつもユニークな発想をしていた人間とは思えません。プレゼントに差し入れ。そんなことで引っかかる男が世の中にいるのでしょうか。裸で誘惑しろとは言いませんが、彼女ならもっと大胆なことをやると思っていたのに、この結果は少し残念でした。
 しかし、そこでもあなたは余計なことを言ったのです。
「一人じゃ不安でしょう。ついて行ってあげる」

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