手紙

　単純な思考回路なのです、あの人は。
　けれどそのときからでしょう。あなたがあの人を意識し始めたのは。当然それは単なる思い上がりです。自分を見ている人が、必ずしも自分に好意を抱いている、なんて考えるのはご都合主義もいいところでしょう。
　あなたは、今私があなたを見ていたとして、好意を持っていると思えますか？
　あなたは彼女に協力していました。それは建前です。本音の部分では、あの人のことを知ろうと必死だったのではないですか？　あなたは随分、あの人について熱心に調べていましたからね。化けの皮が剥がれる瞬間を逃すまいと、私は一生懸命あなたを調べていましたから。
　何かに集中しているときほど、人間は隙だらけになるものなのですね。そして、あなたはおもしろいくらいに、本性を見せ始めました。
「私……避けられてる」
　あなたはあのとき、完璧に演技していたつもりなのでしょう。しかし、私にははっきりとわかりました。うまくいった、と言わんばかりの得意げな表情が。
　そして、その油断がいけなかったのでしょう。あなたは避けられている、と断定しました。
　確かに、彼女があなたに対してどのように接したらいいのかわかりかねている部分は見え始めていましたが、決して避けているわけではなかったのです。そんなもの、第三者から見れば一目瞭然なのですよ。せめて、「何かしたかな？」くらいならば、私の目を少しは誤魔化せたでしょうに。
　あなたはしきりに、「私が何か間違ったことをしたのか」ということを言っていましたが、私から言わせれば、最初から間違いだらけでした。テストでいうなら赤点です。あなたは彼女の望まないものを与え続け、余計なお世話をし続けていたのですから。
　しかし、私は何も言いませんでした。それはあなたも覚えていることでしょう。私が言ったのはたった一言だけです。
「彼女はあなたを避けていない」
　その日から、あなたが私たちを、と言うより彼女を避けるようになりました。