銀鏡神話‐翡翠の羽根‐
「かかってきなさい。

私は逃げない。」

美紗はヴェルディの前に堂々と出る。

愚かな、とヴェルディは言うと、さらに一言付け足した。

「そして哀れだ!」

ヴェルディは長刀を美紗に振りかざした。

『支配者の名に命じる。

我が楯となりし竜の牙、

夢の彼岸は直ぐ横に。

来たれ、絢爛の花園!』

花が舞う。

酔いしれる程に可憐で、純情な真赤の其れは、ヴェルディの長刀を包み込み、飲み干してゆく。

「支配力はまだ詠唱無しでは使えないか。

しかも生死を決定付ける最高支配術もまだ使えない。

なら、」

一気にヴェルディは美紗の視界から消え去る。

「儂の敵では無い。」


グサッ


胸に、凄い痛みが迸る。

血が噴射する。

「支配……者の名に……銘じる。

我が……血に成り変わりて、再生せよ。

来たれ、廃人の独眼!」

地から召喚されるのは、独眼の死人。

死人は美紗の体内に取り込まれる。

すると、瞬く間に美紗の傷は回復される。

「死人を召喚し、自らの傷を死人の躯で補う。

支配術は魔術や召喚術とは較べ物にならない位、奥が深い。

普通の生物には無い新……いや、神発想だ。

神々の領域の最高傑作。

やはり手に入れなければ。

儂の物にする。」

長い紫色に変色した舌で、口周りを舐めると、ヴェルディは緑色の唾液を垂らしながら、美紗に襲い掛かる。

「小娘!

小娘にはもったいないぞ其の術は!」

速い。

何よりも速かった。

素速く美紗の後ろに回り込み、美紗の首を絞める。

「樂に殺めてやる。

一度は愛した女の娘だ。

儂だって昔は一人の人だ。

情は有る。」


グシャッ


気持ち悪い。

一筋の暗い音が鳴る。

其の音に起こされるかの様に、キャルナスは正気に戻った。

「ミ……サ……?」

ふと、音の方に目をやった。

其処に居るのは、ヴェルディと、顔を蒼白にし倒れている、自分の君主だった。
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