銀鏡神話‐翡翠の羽根‐
『キャルナス!

キャルナス! 落ち着いて!

貴方は神様に撰ばれた人なんだよ!!』

神様に……撰ばれた?

有る意味ではそうなのかもしれない。

神にとって私は格好の玩具なのだろう。

私を呪って、周りの人間まで苦しめ、さぞや天で面白おかしく笑っているに違いない。

『貴方の力はね、本来は人を救う為の力なのよ。

使い方を間違ってしまっただけなのよ。』

優しく宥める。

言い聞かせる優しい言い方、彼の穏やかだった父を思い出させる。

『私の力が人を救う為の物?

何を言ってる?

私は訳の解らない此の力で、何人殺した?』

キャルナスは両手で肩を掴むと、ガクガクと震えた。

彼は自分が恐くてしょうがない。

嫌でも機械的に人を殺める、内に眠る殺戮の才。

何故此が人を救う?

傷つけるだけじゃないか。

『人を殺められる力は、使い方を正反対にすれば救えるわけでしょう。

キャルナス。

死神になってよ!』

真逆の力。

何だかんだ言って、霊螺の言っている事は当たっているのかもしれない。

だからと言って、其れを上手く操れるとは限らない。

『無理だ、私は、私は……』

『狼狽えないで!

間違っても貴方を私は信じ続けるから!

貴方が自分を見失わない様にするから!

ね、出ましょう此の世界から。』

霊螺には、不思議な魅力があった。

私のこんな才とは違い、人を惹きつける、素敵な才だ。

きっと彼女が唄えば皆聞き入り、
彼女が始まると言えば皆始まり、
彼女が終わると言えば皆終わる。

私も彼女に惹きつけられてしまった。

差し出した彼女の手の温もりの虜になってしまった。

冷たかった私の手は、彼女の手に触れる事によって、まるで雪が溶けるかの様に人並みの温かさを手に入れたんだ。

『行こうキャルナス。』

悪界から人間界へと繋がる扉は、柔らかい音をたててゆったりと開く。

溢れ出る薄い月光に似た光は生きている心地を感じさせた。
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