銀鏡神話‐翡翠の羽根‐






「長くなって申し訳無かった。

……美紗、お別れだ。」

キャルナスは美紗を抱き締めていた腕を離すと、今までで一番哀しくて美しい、笑顔を見せた。

皇位回復魔法のマナリラ・プラーマにより、美紗はヴェルディから受けた傷を殆ど回復させた。

なのに……キャルナスの顔色がどんどん悪くなってゆく。

彼の赤い薔薇の様な瞳は霞がかり、白い薔薇の様な肌は薄紫色に染まっていく。

美紗はぐったりした、生気を喪いつつ有るキャルナスを担ぐと、湖の底から何とか泳ぎ、外に出た。

出ると其処は焔が燃え荒れる戦の地。

神の聖地・アリアードの面影は最早無い。

焼け野原となった森、彼の大きく、年寿の強い大樹たちは灰になった。

天魚たちの死骸に溢れ返った湖。

草花は塵となり、空を舞う。

「キャルナス!

何で、何でお別れなの!?」

濡れたキャルナスの金色の髪が、焔に照らされ紅く光。

解る、このまま放っておけば、直ぐにでも彼は逝ってしまう……。

「あたし、やっとキャルナスの事知ったんだよ!

理解出来たんだよ!?

これからなの、これからなんだから!!

キャルナス……嫌、逝かないで……」

前繋いだキャルナスの手は、糸みたいに細いのに、春の日向の様に温かかった。

きっと話に出てきた霊螺の温もりが、彼の手に伝わったのだろうけど。

「美紗、私は死神になる時に誓約を交わしました。

私が王家の血筋だという事は、絶対黙秘すると。

やっぱり、王家の人間が死神になるのは都合の悪い事らしい……

王家秘伝の魔術も使ってはいけないという誓約させられました。

……使ってしまったら、誓約の力が私を滅ぼす。」

キャルナスは、キャルナスはあたしを救う為に禁術を……?

酷い。駄目だよ死んだら……

此処で死んでしまったら、貴方は一体何の為に生まれて来たのか、
本当に解らなくなってしまう。

「駄目……あたしの為にキャルナスが死ぬなんて、あたしは嬉しくない!」






『……支配者よ。

汝は、何故に其の能力を持つ?』





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